呉のやぶ

呉の秋祭りのシンボル的存在、「やぶ」の今と昔をお伝えします。

貴船神社の祭り

祭りが行われている場所は、何も神社とその周辺だけではありません。

いわゆる「町回り」もそこに暮らす人々が祭りを体感できる貴重な場となっています。

この度、その町回りに的を絞って訪ねたのは、毎年、10月第三日曜日に警固屋の地で開催されている、貴船神社の祭り。

この日、警固屋市民センター付近に着いたのが、午前10時頃。

最初に目に留まったのは、町中を流れる川*1の水位で、水面が道路の際近くまで上昇していました。

 

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通りがかりの女性に尋ねると、大潮の日は河口の潮位はこれくらい増すとのこと。

ちょうど満潮時刻を少し過ぎた時間帯でした。

その後、笛や太鼓の音を頼りに祭礼一行の居場所を探索。

町回りのコースについては、事前に情報を得ていましたが、現地に入るとやはり最も頼りになるのは「音」です。

耳を澄まし、かすかに聞こえる方向へと向かって坂道を登っていくと、音は次第に確証のレベルへと変わりました。

すると、見晴らしの良い高台の道を南下しているところを発見。

同じく太鼓の音にひかれて家から出てきたのか、幼い孫を連れたお爺ちゃんと思しき方も一行に近づき、囃子の様子を楽しそうに見入っていました。

 

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高台に着くと、既に顔なじみになっている祭り関係者の方に挨拶。

祭り好きが趣味で写真を撮っているだけですが、今年も笑顔で迎えてくれました。

何とも嬉しい限りです。

聞くと、やぶは今年10匹出ているとのこと。

中でも貴船神社の伝統的なやぶと言えば、エンマ、ダンゴ、ニグロですが、このうち、ここにいたのはエンマのみでした。

 

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エンマ

 

町回りは、二班に分かれて行われていたため、もう一班の所在についても尋ねてみると、警固屋中学校の付近にいるはず、と。

ダンゴとニグロはもう一方の側にいるようです。

ここでちょうど、「エンマ班」が休憩に入ったため、一旦、一行と離れ、教えてもらった警固屋中学方面へと移動。

すると言われた通り、同校付近の国道487号線沿いで「ダンゴ・ニグロ班」の姿が見えました。

ここでも面識のある数名の関係者の方に、まずは挨拶。

いつも温かく迎えてくれる関係者の方には、感謝の言葉も見当たりません。

ありがたいことに、途中、差し入れの缶コーヒーまでいただきました。

ここから先は一行に付いて、町回りの様子を伺いながら、写真を撮り続けます。

お目当てのダンゴ、ニグロの姿もとらえることもできました。

 

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ニグロ

 

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右がダンゴ

 

そうこうしているうちに、「エンマ班」も合流し、一行揃っての町回りが開始。

共通して言えるのは、どの家もどのお店もあたかも町回りを待ちわびていたかのごとく、歓迎している点です。

小さな子どもがいる家は、我が子をやぶに抱いてもらおうと記念撮影を求めます。

 

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もちろんそれに快く応じるやぶ。

やぶに抱かれ泣きじゃくる我が子を嬉しそうに親が写真をとる姿は、呉ではお馴染みの光景です。

また、家の前で笛太鼓を囃してもらった年配の女性が祝儀袋を片手に必死の足取りで一行の後を追いかけている姿も印象的でした。

言うまでもなく、やぶの来訪は縁起物。

家々の厄を払い、地域を災いから守ってくれる民俗的な神事とも言えます。

祭りというと、とかくクライマックスが注目されがちですが、様々な事情や都合によって、そうした場に赴くことができない方も大勢います。

そうした人たちにとって、家や店の前に御幣がかかる秋の日に、やぶや笛太鼓が訪れる「町回り」は、楽しみな祭りそのもの。

そんな当地の町回りも一度は行われなくなった経緯があり、それを15年前に復活させたそうです。

当時はまだ小さかった子どもたちも、今や青年会のベテラン勢を牽引してくれるまで成長しているとのこと。

継承のための好循環が確実に生まれています。

住民の方と丁寧に接し、どこへ行っても喜ばれている町回りの様子を傍から眺めながら、「祭りは誰のためにあるのか」、その答えの一端を垣間見たような気がしました。

 

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*1: 新共川。