呉のやぶ

呉の秋祭りのシンボル的存在、「やぶ」の今と昔をお伝えします。

学術雑誌への掲載

「『呉のやぶ』の多様性と経時的変化」というタイトルの拙稿が『日本民俗学』(第305号)に掲載されました。

 

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『日本民俗学』(第305号)

 

日本民俗学』というのは、日本民俗学会が発行する査読学術誌です。

一昨年の夏に投稿し、昨年12月に「研究ノート」として採択されました。

やぶに関するフィールドワークの成果は、これまで本ブログや写真展などで趣味の一環として四方山話的に随時公開してきましたが、取材ノートも厚みを増してきた中、このあたりで私なりの発見物を、単なる「書きっぱなし」ではない、(あわよくば)その道の学者に参照・引用してもらえるような「ちゃんとした書き物」にまとめておきたかったというのが、投稿の動機です。

民俗学に関しては門外漢ですが、匿名レフェリーの先生方からいただいた貴重なコメントのお陰で幸いにも掲載にこぎつけることができ、これまで学術の世界では「未知」であったやぶを民俗学的に考察する小さな取っ掛かりを作ることができました。

今後はこれが当該分野の研究者の目にどう映り、どう面白いと思ってもらえるのか、一やぶ好きとして興味があります。

さて、肝心の中身ですが、内容としては、下記の表1に示す通り、1)2012年以降、延べ146回、祭りの現場を訪ね*1、2)大正・昭和の写真を計555枚、収集・分析し、3)現役・OBの祭り関係者111人への聞き取りを行った結果*2、第一に一口にやぶといっても地域によってその態様が多様であること、第二にそうした地域色の大幅な変化を望まない、ある種の弾性*3の高さによって、経時的な変化が抑制されてきたことを実証的に詳らかにしています。

 

表1 調査概要の一覧

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出所:拙稿(2021)p. 5.

 

全文を読まれたい方は、下記よりダウンロードできるので、ご笑覧ください。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/nihonminzokugaku/305/0/305_1/_article/-char/ja/

また、呉市中央図書館に当該誌(第305号)の寄贈も行っているので、そちらでご覧いただくことも可能です*4

なお、この度の掲載は9年間に及ぶフィールドワークの終着でもなんでもなく、今後とも精力的に行っていきます。

次は「昭和のやぶ」をテーマにした企画展を開催したいと考えており、今も昭和期の写真を探し集めては取材を行っています。

その過程でまた新たな発見があれば、再度、民俗学研究の片隅に「やぶの足跡」を残してみたいと目論んでいます。

最後になりますが、前記の調査にご協力くださった全ての方にこの場をお借りして深謝し、拙稿掲載のご報告に代えさせていただきます。

*1:具体的には、戦前からやぶが根付いている旧呉市内、警固屋地区、昭和地区の祭りと、「戦前から」か否かの確認は取れなかったものの、少なくとも昭和30年代以降、やぶを出している天応地区(大浜)の祭り。また、呉市内におけるやぶ地域と非やぶ地域の特徴を相対化する目的で、吉浦、阿賀、広など、やぶではなく鬼が出る祭りを行っている地域についても調査を行った。

*2:2020年11月、最終稿執筆現在。

*3:物体に外から力を加えたときに元に戻ろうとする性質。各地のやぶ史を観察すると、やむを得ない事情で短・中期的に何らかの変化が生じても、長期的にはかつての姿に回帰する傾向が見られることから、本稿ではこの「弾性」の概念を比喩的に用いて、多様な独自性を維持しようとする性向を分析的に説明した。

*4:下記の蔵書検索でキーワード欄に「呉のやぶ, 民俗学」と入れて検索をかけると表示。

https://www.lics-saas.nexs-service.jp/kure-city/webopac/index.do?target=adult