呉のやぶ

呉の秋祭りのシンボル的存在、「やぶ」の魅力をお伝えします。

やぶと鬼の違い

やぶを指差しながら「ほら、あそこに鬼がおるよ」という会話を耳にしたときに感じる違和感。

あれは一体何なのでしょうか。

「鬼」が秋祭りに出るというのは、全国的に珍しいことではありません。

しかし、呉もその一つなのかと言われると、素直にそうとは認め難いところがあります。

と言うのも、そこには「やぶと鬼は同じなのか」という深遠なテーマが潜んでいるからです。

そもそも「やぶ」とは何で、呉の祭りに出るようになったのは一体いつ頃からなのか。

これらの疑問に明確に答える史料は何も残されていません。

唯一、分かっているのは、やぶは「神様の道案内と警護を役目とする」という"口頭伝承"のみです。

しかし、これだけ手がかりの少ない民俗文化でありながら、敢えて筆者は「やぶは鬼とは似て非なるもの」という立場を取っています。

理由としては、第一にやぶは、節分の豆まきの対象となるような厄災をもたらし、忌み嫌われる存在ではなく、また桃太郎に描かれているような人々に深刻な危害を加える存在でもないという、言わば、基本的な性格の違いが挙げられます。

上記の「神様の道案内と警護を役目とする」という口伝からしても、鬼ヶ島に住む鬼とは立ち位置が明らかに異なっています。

但し、「鬼神」という言葉が言い表しているように神様としての鬼という存在もあれば、悪霊を追い払い、人々に幸福をもたらしてくれる存在として崇められている事例もあることから*1、邪悪な存在ではないという理由のみで「やぶは鬼とは似て非なるもの」と言い切ることはできません。

そこで、第二の理由として、見た目の違いという点を挙げておきます。

つまり、やぶにはやぶと呼ばれるだけの「やぶ顔」としての特徴が備わっているというわけです。

分かりやすく言うと、鬼の顔を見て果たしてそれがやぶの顔に見えるかどうかという視覚認識上の問題です。

例えば、一寸法師に登場する鬼は、やぶに見えるでしょうか。

 

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出所:http://yosukenaito.blog40.fc2.com/blog-entry-628.html

 

あるいは鬼彫刻の傑作とされる康弁作*2の国宝、天燈鬼と龍燈鬼を見て、呉の人はそれをやぶと見紛うでしょうか。

 

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出所:http://f.hatena.ne.jp/makoto-jin-rei/20171123183014

 

答えはいずれも否でしょう。

明快に言語化するのは容易ではありませんが、これらの鬼は、眉や口元、顎、頬の骨格などどれを取ってもやぶとは程遠いと言えます。

やぶは単に鬼の方言ではなく、やぶらしい顔つきをしていて初めてやぶとして認識されるのです*3

ところが、その「やぶらしい顔つき」というのも決して一様ではありません。

一口にやぶと言っても、その見た目は神社によって随分と異なっており、また同じ神社であっても奉賛会や地区によって、さらには個々の面によってもなお細やかな違いがあります。

しかし、ここではこうした細部の議論はさておき、大まかには旧呉市内、警固屋地区、昭和地区の3地域に分けて括ると、それぞれの「やぶらしい顔つき」というものが、およそ見えてきます。

 

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なぜ、これら3地域なのかと言うと、①いずれも鬼ではなくやぶという呼称が一貫して使われていること*4、②戦前から今日に至るまで長きに亘ってやぶが出続けていること*5、という二つの共通した特徴があるからです。

つまり、やぶが文化として歴史的に根付いており、それでいて、「やぶらしい顔つき」が互いに相当程度、異なっているのがこれら3地域というわけです。

しかも顔つきだけでなく、下記の表1に示す通り、多数のやぶを何によって分類し、どう識別するのかといった文化的慣習にも顕著な違いがあり、この点も地域差を際立てています*6

 

表1

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そこで、以下では当該3地域を対象に、2018年シーズンの秋祭りをスライドショーで振り返ることとします。

やぶがやぶとして認識される条件について、読者の皆さまはどうお考えでしょうか。

 

【警固屋地区】

 

宇佐神社

呉市警固屋4丁目14-31

...

 

呉市警固屋8丁目3-9
...

 

森土恵神社

呉市的場5丁目7-28

...

 

【昭和地区】

 

多賀雄神社*7 

呉市苗代町876

...

 

竹内神社 

呉市栃原町981

...

 

神山神社 

呉市神山1丁目19-29

...

 

高尾神社 

呉市焼山中央2丁目11-11

...

 

向日原神社 
呉市押込3丁目5
...
 
【旧呉市内】
 
亀山神社 

呉市清水1丁目9-36

...

 

八咫烏神社

呉市宮原11丁目12-25
...
 
伊勢名神
呉市宮原6丁目8
...
 
赤崎神社
呉市室瀬町2-23
...
 
呉市新宮町13-9
...
 
鯛乃宮神社
呉市西三津田町1-1
...
 
出穂金神社 
呉市山手2丁目13
...
 
日神社
呉市和庄本町19-2
...
 
平原神社
呉市平原町18-17
...
 
伏原神社
呉市伏原3丁目5-26
...
 

龍王神社
呉市西辰川2丁目9-10
...
 
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*1:下記を参照。

https://ja.wikipedia.org/wiki/鬼

*2:建保3年(1215年)。

*3:他にも着衣や襷、竹などもやぶがやぶとして認識される上での重要な構成要素。

*4:吉浦や阿賀、広の祭りでは、やぶではなく鬼が出る。

*5:仁方や音戸は従来はやぶ文化の圏外であったが、近年になってやぶが祭りに出されるようになった。

*6:他にも奉納行事において俵もみを行う伝統が古くからあるか否かや、よごろの日に子どもを追いかけたり、かつては竹や紐で激しく叩くなどしていたか否かといった、祭りにおけるやぶの基本的な振る舞いや役回りといった点にも差異がある。

*7:昭和地区の中でも多賀雄神社の祭りに限っては、やぶではなく、鬼と呼ばれるのが一般的。